先輩と後輩のありえない話

場末のレンタルビデオ屋にて。カウンターの先輩と後輩。

「……すげえしつこいんスよ。ほら、これ、着信履歴」
「うわあ、エミちゃんエミちゃんエミちゃ……おまえ“ちゃん”づけは止めろよ!」
「とにかく、おれ、もう絶対電話しないことにしたんスよ」
「キリがねえもんなあ」
「そう。だから(電話)かかってきても、こっちからは絶対にしない」
「もう彼女じゃなくて元カノだもんな」
「元カノって響きもヤなんスよねえ。前女(ゼンジョ)みたいな」
「全女(ゼンジョ)ってプロレスだもんな」(註:全女=全日本女子プロレス
「……」
「……」
「こないだなんか、留守のあいだに勝手に部屋に入られたんスよ」
「ええっ? それヤバイだろ」
「合い鍵、返してもらってないんスよねえ」
「ストーカーみたいだな」
「下着盗まれたりしましたよ」
「えっ、それじゃストーカーっつーか、変態だよ!」
「でもそういうのって付き合う前は分からないじゃないスか……」
「たしかになあ。付き合ってみて初めて分かることってあるよな」
「だからおれジョセイフシンていうんスか?」
「女性不信?」
「そう、それなんスよ!」
「ふーん」
「○○先輩、もし……“もし”の話ですよ。もし、めっちゃタイプの子がいきなりコクってきたらどうします?」
「えっ? ……めっちゃタイプ?」
「はい!」
「いきなり?」
「はい!」
「…………」
「おれ、絶対裏があると思っちゃうんスよ!」
「そ、そうだよなあ。嬉しいけど、ありえないよなあ。めっちゃタイプなんだろ? それでさらに“いきなり”ってのがまたありえねえよ!!!」
「ですよね。自分もすぐに疑っちゃうんスよ」
「そりゃ疑うよなあ」


なんだ? この会話。