地下鉄のおっさんたち

だれかから聞いたんだけど、だれから聞いたのか忘れてしまった話。
──地下鉄に乗り込み、座席に着くと、正面にふたりのおっさんが座っていた。
ふたりは気持ちよさそうに居眠りしていた。
おっさんAはウトウトと舟を漕いでいた。
酔っているのか、電車が発車すると、グラグラと左右に揺れだした。
加速にともない、揺れは激しくなり、とうとうおっさんBに身を預けんばかりの勢いになった。
電車が減速し、ホームに到着した。
その反動で、ガクンと身を揺らすと、おっさんAの頭頂から何かがポトリと落ちた。
おっさんBの股間にあるのは、黒々としたヅラだった。
異変を感じたのか、おっさんBはパッと目を覚まし、下を向き、瞬時にして顔面蒼白になった。
そして、何を考えたのか、あわててズボンのチャックを開け、ヅラを中にしまいこんだ。
電車のドアは閉まろうとしていた。
おっさんBは席を立ち、逃げるように降車した。
残されたおっさんAは、いい夢でも見ているのか、相変わらず気持ちよさそうな寝顔を披露していた。