長島有里枝展@NADiff

1993年、パルコ主催の公募展「アーバナート」で荒木経惟に見いだされ、女性写真家ブームの火付け役的存在となった長島有里枝の個展。
記憶を頼りに再現すると、こぢんまりした白い展示空間に、日常を撮った六つ切りのカラー写真が数十点、いくつもの表情を連続写真のように撮ったキャビネサイズのモノクロ写真が20点くらい。加えて、奥の壁面に大きく描かれたドローイング1点と、紙に鉛筆で描かれたドローイング数点。ざっくばらんでありながら、全体のバランスと見やすさが配慮された簡潔な構成。
女性が配偶者をこのように撮る写真はあまりなかったかもしれない。これらは7年かけて撮られたという。会場にいた女性のひとりが「(この彼も)こんなに愛されたら幸せだよね」と感想を漏らしていたけど、僕にはむしろ、幸せなのは長島のほうではないかと思えた。それは、被写体の配偶者が幸せか否かという関心から自由に見えることから受ける印象なのではないかと思う。ではなぜ自由に見えるのか。そもそも彼がそういうキャラクターなのか、あるいはそういう場面の写真ばかりが選ばれているからなのか。もちろん答えは分からない。ただ、いずれにせよ、このシリーズにおける彼は、極端にいえば、まるでペットだ(ペットは自分が幸せか否かとは考えない)。たぶん長島のドローイングが発表されるのは珍しいことだけど、彼女にしてみれば、何もかもがかわいくて仕方なく、撮るだけではなく描いてみたくもなったという感じではないだろうか。もちろんペットと飼い主の関係にもいろいろあるし、当然これは善し悪しの問題ではない。このような関係性を捉えた写真が生まれること自体、男女同権社会のひとつの必然なのではないかと思っただけだ。ちょっと内田春菊を連想したけど、それはまた別の話かな……。展示は来年1月16日まで(http://www.nadiff.com/)。