「金八」第14話「車掌がトラメガを捨てたワケ」

最近「金八」の話ばかりしているような気がする。自分がどこに惹かれているかというと、おそらく出演者の初々しさと演出のベタさを併せ持つところではないかと思う。前者は今時の中学生のドキュメンタリーとして見ることができるという意味もある。後者はもちろん下手という意味ではなく、テレビドラマの基本を再確認させられるという意味だ。近年の日本の学園群像劇において、「金八」こそが王道的な位置づけにあることに異論がある人は少ないと思う。いやむしろ「金八」はひとつのジャンルであるともいえるような気がするけど、それはともかく、このような状況においてこそ、他の学園ドラマが登場してもいいのではないか。たとえば続々とDVD化されている大映ドラマのひとつ、『スクールウォーズ』は映画化されたけど、むしろ今こそテレビシリーズでやる意義があるのではないか。と、一応、提案しておきたい。
さて、先週の「金八」第14話の主人公は通称“車掌”(http://www.tbs.co.jp/kinpachi/story/014.html)。今回はほぼ一話完結で独立性が高く、あまりにベタな(よくできた)展開に感心してしまった。車掌はこれまで、肌身離さず携帯しているメガホンを通してしか会話ができないという奇癖で知られていたのだけど、同級生ノリコへの恋の告白、さらに推薦試験の面接において、いずれもメガホンに頼ってしまうという失敗を機に、その原因が小学校時代のいじめにあることが明かされる。金八に挑発され、「なんとか肉声で気持ちを伝えたい」と再度告白に挑戦する場面では、弁当屋の仕事を手伝うノリコに向かって、「す、す……」と「好きだ」という最後の一言がなかなかいえず、とうとう苦し紛れに「シャケ弁ひとつ!」とメガホンを通して叫んでしまう。「はい……」と悲しげに注文に応じるノリコのアップに続くのは、夜の境内でひとりシャケ弁を頬張り、涙する車掌の姿だった……。笑えて泣ける名場面だ。そして事態は、車掌がメガホンに八つ当たりした直後、偶然にも放火によって燃え上がる炎を目撃したところから急展開する。
「火事だ!」
決死の覚悟で肉声によって周囲の住民に警告した車掌は、逃げる放火犯をノリコの前で捕らえ、翌朝クラスメイトの前で警察に表彰され、さらに悪友たちに背中を押され、その勢いで三度目の正直とばかりに緊張した面もちながら堂々とノリコに告白するものの、「友達でいたい」と返され、見事撃沈するという次第。ふられたとはいえ、男を上げたと肩を叩かれながら、慰められ、祝福される車掌。失恋のショックか、緊張が解けたのか、困難を乗り越えた喜びなのか、その目からは涙があふれて止まらないのだった──。
いやー、よくできている。おそらくこれは車掌というキャラクターができたときにすでに浮上していたシナリオなのだろう。ちなみに小山内美江子はすでに脚本を降りているけど、これは今後どのような影響を与えるのか……。