いよいよ最終回「女王の教室」

始まって間もなく、児童に失禁させる場面が話題を呼んだ「女王の教室」。その後、ドラマに否定的な視聴者の目を恐れたスポンサーが、番組終了時のクレジット表示を控えたいと申し出たとか。実際には賛否両論があることだし、これはちょっと過剰反応に思える。もしかして話題づくりのひとつなのかと勘ぐってしまうけど、僕などはまんまと引っかかったのか、途中乗車でこれまで見続けてしまった。
このドラマの構図はいたって単純で、ひたすら威圧的、高圧的に振る舞う女教諭・阿久津真矢(天海祐希)と、彼女が担任を受け持つ小学六年のクラスの児童たちとの対立が描かれている。真矢はたんに規律を重んじる堅物の教師ではない。成績による露骨な差別と、それに基づいた秩序づくりをはじめ、各児童の弱みを握り、そのうちのひとりをスパイとして取り込むなど、さまざまな権謀術を張り巡らせ、教室の女王たらんとする。つまり、たんなるスパルタ教師というよりも、暴力に訴えることなく、世間知らずのふつうの児童たちを内面から抑圧的にコントロールしようとする、日本テレビドラマ史上、類例を見ない教師なのだ。
女王の教室」の見所は、真矢のエキセントリックなヒールっぷりとともに、それに右往左往しながらも、なんとかして教室に「平和」をもたらそうと試みる児童たちの奮闘にある。しかし、真矢は一ミリたりともブレることなく、児童たちと一線を画し、教室を独裁的に支配しつづけてきた。このような恐怖政治を目の当たりにした視聴者は「ドラマなんだから、このまま終わるわけはない」と高を括りつつも「もしかして、このまま終わっちゃうの?」と心配し、あるいは「ようするに真矢は敵なのか味方なのか(たんなるドSなのか、それともじつは良い先生なのか、あるいはドSな良い先生なのか)」という問いが頭から離れず、ついつい気になって毎週チャンネルを合わせてしまうのだ。
こうした重苦しい雰囲気とハラハラ感をここまで持続させてきたところが異色のドラマたるゆえんなのだけど、しかし、先週の放送ではついにこの問いが真矢にぶつけられ、これまで謎だったその行動原理の一端が明かされた。当初、真矢の「いじめ」の対象の最右翼であり、現在ではクラスのリーダー的存在である神田和美は、クラスメイトたちの不満とは裏腹にクラス全体が良い方向に進んでいることを感じとっていた。そこで彼らは神田の発言をきっかけに、授業を中断して真矢にさまざまな質問を浴びせ、白黒はっきりさせることにしたのだ。もちろんそれはドラマの位置づけを決定づけるものでもある。
「なぜ勉強しなければならないのか」「なぜ先生は厳しいのか/いじめるようなことをするのか」、そして神戸の事件をきっかけに、一時、論壇で議論された「なぜ人を殺してはいけないのか」という問題も呼び込まれるが、真矢はつぎつぎと淀みなく回答する。さらに、このドラマのクライマックスともいうべき場面につづく、「先生は本当は良い先生なんじゃないですか?」という最後の質問に対する答えがなかなか面白かった。「失礼なことをいうのはやめなさい。私は自分のやっていることが間違っていると思ったことなど一度もありません」。つまり、真矢は生徒が教師の良し悪しを問うこと自体、認めないのだ。
女王の教室」は、戦後民主主義的な教育観からすると、教師と生徒というより、まるで看守と囚人のような関係を描いてきた。訓練の場という意味で、学校と刑務所は変わらない。看守にしてみれば然るべき任務さえ遂行していれば、囚人が自分をどう思うかなど知ったことではなく、本来両者の関係にはそのような問いが介在する余地がないのだ。もちろん、実際には──刑務所の実態はよくわからないけど──、教師が強権を発動するばかりでは済まされないことは少なくないはずで、真矢のように突き放してばかりで事態が好転するようなことは、まず、ないはずだ。ただ、それでもなお、その一貫した姿勢*1は、少なくとも「(児童と)友達でいることにしました」と困ったことをいう後輩よりはマシというべきなのだろう。真矢は「教師が揺らいでどうするんですか」とプロフェッショナルとして至極真っ当なことを先輩にいってのけたりもする*2ゆとり教育をすぐに反省する文部科学省は耳が痛いはずだ。
ともかく「女王の教室」はここにきてようやく、ひとつの理想の教師像、学校像を示したわけで、話は半分くらいオチてしまった。次回はなんだかお涙頂戴的なエピローグになってしまう気がしないでもないけど、さて、いったいどのように締めくくられるのだろうか。
ところでこのドラマ、漫画化するなら藤子不二雄Aでぜひ。

*1:もちろんスパイとか弱みを握るとか、いじめの予行演習とかは、ドラマならではの(エキセントリックな)展開なのだけど。

*2:といっても教師全員真矢、というのも恐ろしい事態だし、現実的には和み役の「ダメ教師」がひとりくらいいてもいいだろう……。