武居俊樹『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』

赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

赤塚不二夫のことを書いたのだ!!

めちゃくちゃ面白い。フジオ・プロの漫画制作システムが、ようやく明かされたというべきなのか。赤塚不二夫による作画はネームと当たりまでで、ペン入れはしないという事実は意外だった。赤塚氏はひとりではダメだ、という断言はちょっとした衝撃でもあった。それはもちろん、赤塚氏に才能がないということではなく、アイデアマンを抱え込む分業体制によってこそ、その才能が発揮されるということなのだけど。
ともあれ、このようなシステムを自覚的に採用していた点で、赤塚氏はやはりパイオニアだったのかもしれない。意識する漫画家は手塚治虫くらいで、もっぱら映画を目標にしていたというのも頷ける。
また、この本は赤塚不二夫の伝記でもある。ギャグ漫画家として才能を開花させ、ボロボロになるまで、それを蕩尽していく姿が、伝聞調を排した思い切りのいい文体で活写されている。たとえば、盛り上がる大宴会のオチをつけようとする場面。

 カネさんは、必死の形相で逃げ出す。我々は、犯人を追跡する。西武線中井駅近くの線路沿いで、犯人を捕まえた。どうしてもカネさんを殺そうという、三人の思いは同じだ。
 アイデアが浮かぶ。
「こいつを轢死させよう」

だれかれとなく思考をシンクロさせ、現在形で語っていく。まるで『天才バカボン』の世界だ。そしてその『バカボン』の連載が中止に追い込まれ、仕方なくいったんは諦めるものの、やはり『バカボン』への思いを捨てきれず、赤塚氏が苦悩する場面。

バカボンのパパが、赤塚の肩に手を置いて言う。
「おい、わしを描くのだ!!」

なんとパパが登場! 荒唐無稽だけど、これはこの本の中でも指折りの名場面。こんな場面も、別の人物に憑依するかのごとく、すぐに視点が切り換えられ、リアリティが補強されている。さすが赤塚ワールドを支えてきた編集者というべきノリノリの文章だ。*1

*1:ちなみ「コミックパーク特別企画〜赤塚ギャグの合奏者たち」(http://www.comicpark.net/new/topic/akatsukainterview/index.html)に武居氏が登場する模様。