小林賢太郎ソロコントライブ「ポツネン」@本多劇場

観客の期待がびんびん伝わってきた。どちらかといえば、笑いを誘うというより、驚かせ、感心させるようにできているコント。小林賢太郎はもともと手品が趣味というか学生時代はデパートで手品(師)のバイトをするくらいだったらしく、今回の公演も手品師としての姿勢を鮮明にしているといえるのかもしれない。2時間ものあいだ、集中を切らさず、視線を引きつける発想、構成、演出、表現力など、どれをとっても唸ってしまう。ただし、期待させつつ、それに応えるのは大変なことで、実際この公演はかなりの完成度なのだけど、それならそれで、観る側としては、ついつい見方が厳しくなってしまうこともある。
以下、実際に観てもらえばわかるのだけど、「アナグラムの穴」というコントにおいて、まず「アナグラムの穴」とか「言葉の再構成」という言葉はテーマと連動しているからまだしも、「七人の侍」や「羊達の沈黙」*1などは、そもそもなぜ選ばれたかが不明なところが、ひっかかってしまった。
また、アナグラムの面白さはいうまでもなく、有限の文字の並べ替えによって、当初の意味とは異なる思いがけない意味が生まれるところにあるわけだけど、とくに前後編の後編のコントにおいて、当初の意味と新たな意味、また、そうやって次々と生まれる状況やキャラクターの相互の関連性は、時間さえかければもっと完成度の高いものになるはずだ。ただし、完成度が高かろうと低かろうと、そもそもここで生まれる意外性のようなものは、すべて逆算の結果であると考えると、それほど驚くようなものではなくなってしまうのだけど……。
もう一点。このコントは最後に小指に嵌められていた指輪を半濁点として使うわけだけど、あそこまでやるなら、そもそもあの指輪がどこから来たのかという説明を仕込んでおくべきではないだろうか。あのままでは「なぜ指輪をしてるんだろうと思ったら、ここで使うのか」とたんに納得するだけだ。
一方、食材を擬人化するコントや謎の競技のコント*2は、演技の幅があらかじめある程度余裕をもたされているので、肩の力をぬいて楽しめる。ラーメンズを含む小林賢太郎のコントの魅力は、一言でいえば、こういうバカっぽさと賢さ、そして遊びがバランスをとっているところにある。その点、小林氏ひとりだと、お笑いとして見ると、賢さが目立つのかもしれない。

*1:正しくは「羊たちの沈黙」?

*2:ごっつええ感じ」を連想させる。