「ブスの瞳に恋してる」と『愛しのローズマリー』

ブスの瞳に恋してる」(http://www.ktv.co.jp/busu/)は、制作発表における「ブスが褒め言葉になればいい」という稲垣吾郎の発言と、ヒロインが村上知子というキャスティングが気になっていたのだけど、どうも当初の期待──といっても何を期待していたのかといわれると困るのだけど──とは違う方向に進んでしまうようだ。初回こそ、たしかに「美幸(村上知子)=ブス&面白い」というイメージが強調されて、はたしてこのふたりのあいだで恋愛が成立するのか、というような「危機感」が煽られたわけだけど、その後は徐々にテレビ業界が舞台の、よくあるシンデレラ・ストーリーになりつつある。そりゃあ、ブスだって恋するし、ブスに恋するひとだっているだろう。それ自体はどうこういうべき問題ではないのだけど、このドラマがちょっとズルいのは、ブスを復権(?)させるように見せかけておきながら、美幸がじつはそれほどブスではなく、少なくとも稲垣が演じる放送作家の「おさむ」は、他の登場人物と異なり、美幸をそもそもブスと認識(差別)していない点にある*1
村上自身はブサイクなのにかわいいという逸材だと思う。僕が知るかぎりでは「わらいのじかん」や「ガキの使い」で、そのキャラクターがいかんなく発揮されていて、とくに後者では、敵対する浜田雅功に脈絡なく背後から胸を揉みしだかれ、その乱暴な振る舞いに怒るどころか、威勢のよい態度から一転、頬を赤らめ、思わず女の表情を見せるという役回りを演じてしまったわけだけど、そんなぞんざいな扱われ方がサマになるのは村上くらいだろう。逆にいうと、これを見た後では、このドラマの村上はどうも少し大人しすぎるというか、イマイチな印象を受けてしまう。
それはともかく、「ブスの瞳に恋してる」とは、ようするに「他の男はともかく、俺はお前の瞳に恋してる」ということで、それは言い換えれば「ひとそれぞれの恋がある」ということなのだけど、このドラマはそのような多様性を仄めかしつつも、昨今の恋愛のリアリティを表現したり、新たな恋愛観を提示しているというより、結局のところ、特殊な業界の特殊な個人を描いたファンタジーと考えるべきなのだろう。だから視聴者の感想は「こんな世界があるんだなあ」「おさむみたいな人がいるんだなあ」というところに行きつくのではないだろうか。
愛しのローズマリー〈特別編〉 [DVD]ファレリー兄弟は『愛しのローズマリー』で美醜差別にもう少し果敢に踏み込んでいる。この映画では、分不相応な美女ばかりを追い回していたブ男が、暗示によって、人の外見が内面の反映に見えるようになってしまう。つまり、美しい心の人は美しく、醜い心の人は醜く見える、というわけだ。男はその変化に気づかず、これまでと同様に手当たり次第「美女」を口説き、ついには、ある「絶世の美女」と付き合うようになる。ところが、順調に交際が進んでいると思われたある日、不意に暗示が解かれてしまい、真相を聞かされたとき、男は彼女の本当の姿を目の当たりにすることを恐れ、彼女を避けるようになる──。
この作品の本気度はローズマリーのブサイク度に如実に表れている。こういう言い方はなんだけど、ローズマリーの醜さは、村上の比ではない。それはDVDに収録されたエピソードでも明らかだ。特殊メイクで巨デブと化したグウィネス・パルトロウは、人生初の体験にショックを受けることになる。パルトロウは人々の反応を伺うために、隠しカメラを携えたスタッフとともに、ホテルのバーへと向かった。そこにいるだれもがパルトロウとは気づかない。スタッフさえ気づかないのだから当然だ。パルトロウがショックを受けたのはそのことではなく、周囲の人間が巨デブの自分を見てはいけないものとして扱い、目を合わせようともしないことだった。
このようなキャラクターを登場させる挑戦的な企画をバラエティやコントではなく、映画でやってしまうところが、ファレリー兄弟の面目躍如たるところだ(映画以外の仕事はよく知らないけど)。ただし、オチについては伏せておくけど、少々偽善的というか教訓的な寓話に見えるところが、ちょっと気になってしまう。まあ、いつものことだし、そうしないとさすがに救いようがなく、映画として成立しないのだろうけど……。*2

*1:最初から恋愛の対象外にされているという意味ではブス扱いなのかもしれないけど、そもそもおさむは恋愛自体に淡泊に見える。

*2:ところで、ファレリー兄弟といえば、新作『FEVER PITCH』(http://www.feverpitchmovie.com/ )は日本では公開されないのか……。ドリュー・バリモア主演&プロデュース。キャリアウーマンが、めぐりあった男がじつはレッドソックスおたくで、シーズンが始まると野球を介した三角関係になってしまって……みたいな内容らしい。粗筋と予告編から判断するかぎり、この兄弟にしては、大人しめのロマンチック・コメディという印象ではあるのだけど。