大日本人

評価、割れてますね。

これは役立ち度トップのレビュー。
いくつか付け加えるなら、ドキュメンタリータッチ*1にしたのは、映画でもテレビ(コント)でもない微妙なラインから引きずり込もうということだと思うんですよね。一方では劇場公開映画だから、テレビやビデオとは異なる、それらしいことをしなければならないし、他方では万人が知る「テレビの松ちゃん」のイメージを無視するわけにもいかない。そんな条件下で、ああいう緩めのフェイクドキュメンタリーで導くのは巧い。しかも、ある意味、映画を撮る技術が問われない手法でもありますからね。ただ、それにしても前半は少々緩すぎて眠気を覚えてしまいました……*2。日本人向けにわざと緩くしたらしいんだけど、ちょっと意図を量りかねます。

ヒーローが世襲制で、生身の肉体のまま巨大化するという設定には、松ちゃんらしい独創性を感じます。「等身大のヒーロー像」を描くという趣向自体は珍しくないですが、これにさらに「視聴率問題」を絡めたところがいいですね。
構成的には視点の切り換えがさすが。
それから単純に怪獣のデザインが面白いです。

と部分的には疑問を抱きつつも総合的には肯定的なわけですが、一方で評価が割れるのもまったく頷ける作品ですね……。あの松本人志の監督デビュー作ですから、どんな作品だろうと自然と厳しく観られるでしょう。それに、芸人松本がこれまで築いてきた「貯金」というか信用を正当に使っているのか、それとも「利用」しているのか、という印象の違いも、いたずらに評価を分けることにつながりそうです。
先に「テレビの松ちゃん」のイメージを無視するわけにもいかない、と言いましたが、それはもちろん原理的に無理というより、現実的ではないし、そもそもあえて無理してまったく新しいものに手を出す意味はないということです。その点、事故のように映画を撮り始めた北野武とは比べにくいですね。


[追記]これは多くのレビューに欠けている見方。

[再追記]『大日本人』では終盤突如として現れるウルトラマンファミリーがブラックに描かれ、それまでウルトラマン的活躍(?)をしていた大日本人(大佐藤)が相対化されています。極端なまでの強権をふるうウルトラマンたちを目の前にして、大日本人がはっきりと凡庸な人間として描かれるんですね。これはよくある笑いのパターンでもあるんですが、そもそもオリジナルのウルトラマンは、一般に「正義の味方」として知られ、実際そのように振る舞う一方で、じつは、地球人と怪獣のあいだで、自身の存在理由を疑う存在としても描かれています。その意味で『大日本人』は、沖縄出身の脚本家・金城哲夫によるウルトラマンの二つの側面を判りやすく、そしてコミカルに描き分けた作品といえるでしょう。

*1:といっても「ガキの使い」のオープニングで見られるようなものではなく、もっと格調高く見えるような撮り方

*2:とくに力うどんのシーンはよく判らない。「餅は大きくなる&力持ちになれる」みたいなこと??