9・11と『永遠の語らい』

永遠の語らい [DVD]歴史学者の若く美しい女が、娘とともに、ポルトガルからインドへと向かう船旅に出る。その途上、各地の歴史遺産を前に、ふたりは西洋史についての対話(というか娘は訊いてばかりなのだけど)を重ねていく。目的地ボンベイではパイロットの夫が待っているという設定。ただし、よくある光景ではあるけれど、子供の素朴な疑問に母親は少し困惑したりして、ふたりの会話は微妙に噛み合わない。ともあれ、船旅がかたちづくる緩いリズムと西洋史の“お勉強”の繰り返しが最後まで続くのかと思いきや、旅が終わりに近づくと、ふたりは船内で、ある欧米人セレブたちが会食する場面に遭遇することになる。彼ら4人はそれぞれの母国語で、西洋が築き上げてきた社会をそれとなく、控えめながら、しかし確固たる自負をもって讃えあう。そして「政治が文明を生み、文明が歴史を生む。これは法則だ」と断言するギリシア人歌手が、船長のリクエストに応え、聴衆をまえに、歴史ある歌を唄いあげる──。
ああ、知的な(というか「正しい」)会話と素敵な余興……。こんな映画、こんな展開に共感できるひとが、はたして日本にどれだけいるのか、とさすがに鼻白んでしまいそうになったのだけど、最後の最後の急展開には文字通り唖然としてしまった。大胆かつ細心で驚愕のオチ。さすが現役最高齢映画監督(たぶん)のマノエル・デ・オリヴェイラというべきなのか。少なくとも、日本人の若造にはとうていありえない、〈9・11〉への恐ろしく真っ当な、それゆえ、たじろぐほかない応答というべきなのだろう……。