『ヒストリー・オブ・バイオレンス』はすごい

デビッド・クローネンバーグといえば変わった題材となんらかの新奇性を好む監督という印象があった。でも、50年代の西部劇を意識したという今回の作品は、物語としてはありふれているし、奇抜な表現を試みているわけでもない。にもかかわらず、とんでもなく素晴らしかった。
策に溺れず、新しいテクノロジーにとくに頼ることなく、クローネンバーグならではの死体やセックスへの執着はあるのだけど、それもこれみよがしではない。どんなオチが着くのか予想させないまま、不穏な寸止め状態が維持されつづけ、行きつくラストは鳥肌ものだった。
ありふれた物語でありつつも、それぞれの場面で的確かつ簡潔な描写を追求し、なおかつ最終的に安易な解釈を斥けようとすれば、なんだか異様な作品という全体ができあがってしまうということなのだろう。古いものだけでも充分に新しいものはできる。これぞアメリカ映画、というべきなのかもしれない。逆にいえば、クローネンバーグはいままで何をやってたんだ……と云いたくもなってしまうのだけど、とにかく、早くも次回作に期待してしまう傑作だった。