嘘を吐く映像

ドキュメンタリーは嘘をつく」が某動画共有サイトにアップされている。こういうところで見るのはちょっと申し訳ないけど、半年前の放送は見逃していたのでありがたい。
内容はというと、一見いい加減ながら巧妙な構成は「ガキの使い」を思わせる。まあ、さすがにあのように洗練されている(こなれている)わけではなく、啓蒙的で、視聴者への配慮なのか、虚構性もそれとなく強調されている。
この番組、自分はもともとこのディレタクーの仕事に関心があるので、「このひとならこういうこと、やるだろうな」という風に見てしまうのだけど、番組内で緒方明が「テレビ・ドキュメンタリーの面白さは見る気のない人に見せること」といっていたように、予備知識がなければないほど楽しめるはず。
ガキの使い」は番組としてすっかり定着しているうえで、フェイク・ドキュメンタリーを何度も更新しているという面白さと凄さがあるわけだけど、一方「何気なくテレビを点けたら、変な番組がやっていた」という偶発的な出会いが失われつつある昨今、こういう試みは貴重でしょう。これが地上波で流れたというのはちょっとした驚きだけど、メディア・リテラシーをテーマとしたこのシリーズは三年前から始まっているらしい。http://www.tv-tokyo.co.jp/literacy/


ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国』(http://tora-ten.com/)はビースティの熱狂的なファン(素人)50人にビデオカメラを渡し、それぞれにマジソン・スクエア・ガーデンでのライブの一部始終を撮影させるという企画だった。ライブは大変な盛り上がりで、ビースティのファンというわけでもない自分も気分が高揚してしまった。
ラストを飾るのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領に捧げる「サボタージュ」。そしてライブ終了後、感極まった観客のひとりがカメラマン(画面)に向かって語りかける。
「ねえ、これ、撮ってるの? だったら一言いわせて! ……わたし、数ヶ月前、交通事故に遭って、昏睡状態だったの。でも、(隣の女性を指差し)この子に『チケットとれたの! 一緒に行こうよ!』と声をかけられた瞬間に目が覚めたのよ!!!」
本当に? 彼女は仕込みじゃないんだろうか? と疑いつつ、泣きそうになってしまう。


こういう(手の込んだ)現代的なリアリティを追求する作品と比べると、いかにも単純で、ナイーブに見えてしまうのが『ユナイテッド93』だ。アメリカ人がこういう映画で9・11の記憶を整理したいという気持ちは判らないでもないのだけど、ここには何かあまり知られていない事実や新しい解釈があるわけでもなく、工夫のない筋と演出に、どうしても退屈してしまう。もちろん、この映画はドキュメンタリーではなく、ドキュメンタリー風の再現ドラマにすぎないのだから、ドキュメンタリーとして評価すべきではないのだろう。なにしろ、このとき、ユナイテッド93の機内を覗いたものなどだれもいないのだから。
とはいえ、あらゆる映像が何かしらの真実を映していると同時に何かの再現でしかないことを考えると、そのような区別にあまり意味はなく、むしろ、「リアルだなあ」というこの実感のたしかさと比例する、このつまらなさこそ、一考に値するかもしれない。実際、『ユナイテッド93』を見れば、この先、ドキュメンタリーっぽく見せる手法がいかに洗練され、いかに真に迫ろうとも、それが文脈に依存したたんなる再現ドラマにとどまるなら、あらためて期待できることなど、別に何もないかもしれないと思わされてしまうはずだ。何かの番組で「映画という枠に収まらない…映画を超えてます」というコメントがあったけど、たしかに、これはもう娯楽として見るべきものではなく、なんらかの儀式として体験すべき映画なのかもしれない……。