泣き虫ボクサー

一年前の深夜、「泣き虫ボクサー奇跡」という番組が放送された。気になるタイトルだったのだけど、見逃してしまった。忘れかけたころ、先週フジテレビで「タツキ 泣き虫ボクサーの死闘」というドキュメンタリーが放送された(テレビ欄のタイトルは「泣き虫ボクサーの生きる道」)。

主人公は34歳のボクサー、川崎タツキ中田英寿をかわいくしたような憎めない風貌なのだけど、その半生は壮絶。10歳で母を亡くし、それをきっかけに酒浸りになった父と争うようになり、ドロップアウト。その後、少年院、ヤクザというコースを歩み、シャブ中に。自活不能になり、転がり込んだ姉の家で自殺未遂。沖縄のリハビリ施設に入所。突然姿を消した自分を彼女が探していることを知り、更生を決意。帰京後、トレーナーとなった極道時代の兄貴にすすめられてボクシングを開始。プロになるために入れ墨を消そうとするが手術代が不足。200人から200万円を用意してもらう。プロデビュー後まもなく父が癌で死去。

ここでいったん、ジムの先輩であり、尊敬する元日本王者コウジ有沢のボクサー人生が振り返られる。有沢は引退試合後、泣きじゃくるタツキに告げる。「次はおまえの番だ」……。

そしてタツキにタイトルマッチのチャンスが到来。相手はタツキがボクサーとして目標にしていた選手をあっさりと倒し、引退へと追いやった男、クレイジー・キム。キムは「あんなザコ、ボコボコにしてやる」「なにが悲しくてシャブ中と組まされなけりゃならないんだよ」「明日、シャブ中、ぶち殺せばいいんでしょ?」「こんな試合を見たいなんて、おまえら偽善者」「血圧上がっから消えてくれ」とカメラに向かって言いたい放題。完全にヒールなのだ……。一方、タツキはかれこれ10数年のつきあいで、現在は同棲中の(というか居候させてもらっている)彼女に婚姻届を渡す。タイトルマッチが組まれたら、とひそかに決めていたのだ。しかし、大一番に向けて心身ともに充実させるタツキにアクシデントが襲いかかる……。

そして試合の結果がこれ。
http://www.nikkansports.com/ns/battle/p-bt-tp0-060125-0004.html

分かりやすくドラマチックすぎる展開に驚いた。こんな「逸材」がいるもんだなあと。

ところで最近秀逸なボクシング漫画といえば、やはり『SUGAR』とその続編『RIN』ですよね。前者は計量時の主人公を不意に襲う正体不明の不安と、それに苛まれながら試合を通じで覚醒していく細かいプロセスの描写が本当に素晴らしい。後者では神のような傲慢さと比類なき才能が鮮烈に描かれ、感服してしまうのですが、今後はさらに、それがどう崩されていくのかに期待してしまいます。これまた強烈なキャラである凛の「師匠」中尾、そしてGFはどう絡むのか。ちなみに近年では、志半ばで終わってしまって残念だけど、『Big Hearts』が脱サラしたひとりの平凡なボクサーを丁寧に描いた秀作だった。

RIN(1) (ヤンマガKCスペシャル)

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シュガー 8 (アッパーズKC)

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Big hearts 1 (モーニングKC)

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