『グエムル-漢江の怪物-』

リメイクならともかく、新しく怪獣が創られてしまった。しかもキャラクター製作は『ロード・オブ・ザ・リング』『キングコング』を手掛けたハリウッドのスタッフが担当している。日本の怪獣好き映画人は「やられた」と思ったに違いない。
このグエムルは、デザイン的には楳図かずおの「怪獣ギョー」に似ている*1。大きさは巨象ってところか。生身の人間が立ち向かうには、映画的にちょうどいいサイズだろう。ただし、その動きは巨体に似合わず俊敏で、しかもどことなくユーモラスだ。グエムルの「人間狩り」は一方ではもちろん食欲を満たすためなのだろうけど、他方では無軌道かつ無目的な、子供の遊びの延長という感じがしないでもない。河川に劇薬を不法投棄するという人間の身勝手な行いによって生まれたという設定ではあるものの、グエムルはよくある怪獣のように、同情すべき悲劇的存在にはならないのだ。
グエムルが川岸を遠方から重低音とともに、ドタドタと接近するカットは傑作。「ぅぁぁあああ」と恐怖というより興奮で絶叫したくなる。方向転換の際にコケるところも最高だ。
グエムルと対決するソン・ガンホの子煩悩ぶりも楽しい。下校する娘に出会うとリュックサックの底に両手をそえて歩き、お前のためだと秘かに貯め込んだ小銭を見せて機嫌をうかがい、挙げ句のはてには缶ビールまで薦めてしまう。しかしながら、というべきか、このスウェットパンツ姿のだらしない中年男は、いざ娘がさらわれると、奪回のために、微塵も躊躇せず、グエムルに立ち向かうのだ。脇役のキャラも生き生きしている。DVDではなく、劇場で観ておきたかった。

*1:機動警察パトレイバー』劇場版3作目に登場する「廃棄物13号」という話もあった。