「子供世界と大人世界の間」で……

ホーリーランド』、前から気になっていたんですが、ようやく一気読みしました。なぜ今まで読まずにいたんだ……。一言でいえば、いじめられてひきこもるようになった高校生が、学校にも家にも見いだせない居場所を求めて街を彷徨い、同世代の連中とのストリートファイトによって自己を確立していく漫画です。
弱者である主人公が努力と天賦の才で強くなるという、一見よくあるパターンの物語ですが、どんなに強くなり、仲間ができても、つねに孤独で居場所のないころの自分を軸に考え、行動するところがポイントですね。
主人公は自分の居場所を「ホーリーランド」に求めるわけですが、そもそもホーリーランドとは何なのか? それは、一方ではストリートファイトが展開される、法の力だけに支配されているわけではない街の空間を指し、他方では子供から大人になるまでの限定された時間としても描かれています。
この漫画は現在14巻まで出ていますが、毎巻冒頭で「子供世界と大人世界の間(はざま) そこにホーリーランドは存在する」と全く同じ口上が繰り返されます。直感的にわかるようで、それほど確かとはいえない、そんな「場所」を何度も「存在する」と断言するところに──世界観を浸透させる戦略もあるんでしょうけど──作者の心意気を感じますね。
これは元いじめられっ子の物語でもあるので、途中、忌まわしい過去の記憶が何度も呼び起こされ、そのたびに感傷的だったり、いかにも青春っぽい台詞や内面描写が出てきます。ただし、それが決して独りよがりではなく、具体的な行動の伴ったエピソードとして積み重ねられていくんですね。このようなしっかりとした背景の描写があるので、喧嘩の場面も生き生きしてくるんでしょう。
一方、この作品には、ノールールを基本とする路上において、喧嘩のたびにそのセオリーが新しく組み立てられていく面白さがあって、格闘技好きはもとより、そうでない人も楽しめるようにできています。主人公が強くなればなるほど、より強い相手が出現する。チンピラに始まり、アマレス経験者、柔道や空手の有段者、プロ・デビュー直前のキックボクサーなどなど。
ただし、重要なのは、主人公が決して格闘技やスポーツの道に進もうとはしないところ。これは主人公が不良というか不真面目だからではなく、徹頭徹尾マジメだからなんですね。ここにこの漫画がよくあるスポーツ漫画、格闘技漫画と一線を画す核心があるわけです。
ちなみに、作者の森恒二の作品がこれ以外に見あたらないのだけど、もしかしてこれが処女作? 完成度高いです。ただ、少し気になるのは、主人公が学校では存在感を高めているのに、一緒に暮らす家族の影が薄いままのところ。最終的にはどうなるのか……。

ホーリーランド 14 (ジェッツコミックス)

ホーリーランド 14 (ジェッツコミックス)