鶴本直と天使恵

先週録画した「3年B組金八先生新年スペシャル」をようやく見た。新聞のテレビ欄を見たとき、なぜ上戸彩が出演するのかも分からなかったのだけど、そういえばこの人も3Bの生徒だったのだ。そして今回の演技と挿入された回想シーンを目の当たりにし、この第6シリーズを見ずに、上戸彩について語ってはならないのではないかと思わせられた。同シリーズのテーマのひとつは男女共同参画社会であり、上戸は性同一性障害者という厄介な役所を演じている。
このスペシャルでは、上戸絡みの場面はほとんど本筋と無関係な独立したエピソードとして処理されており、その構成自体、ちょっとどうかと思うのだけど、それより興味深いのは、彼女が演じる鶴本直と現役3Bのある男子生徒との“すれ違い”だ。
この男子生徒は毎日同じ時間に土手をランニングしている女に惚れている。が、声を掛けたいのに掛けられない。恋愛相談された金八は「このままでは受験勉強も手につかないだろうから思い切ってぶつかれ」みたいな助言を与えるのだが、その女は鶴本直だったのだ。鶴本はしかも数日後に男性ホルモン投与の開始を予定していた*1。事実を知った金八は性同一性障害について説き、当然のように「男らしく諦めろ」などと男子生徒を励ます。男子生徒も「しょうがないか」と渋々諦めた様子だ。が、もちろんここで「それでもかまわない」という選択肢もありえたのではないか。とはいえ、様々なマイノリティー問題に目を配り、果敢に取り組む「金八」シリーズもそこまでは手が回らないということか*2。第6シリーズの卒業生にはゲイらしき男もいるようなのだけど。
ちなみに、こうした恋愛の不可能性をめぐる問題を大胆に展開したのが西森博之の『天使な小生意気』だ。この漫画の主人公は、家族や親友に対しては「魔法によって女にされてしまったがオレは男だ」と主張している美少女・天使恵(あまつか めぐみ)。天使は客観的にはほとんど性同一性障害だ。その主張はまったくの妄想かもしれない。だが同時に、つねに行動をともにし、相思相愛でもある幼なじみの女が「本当は男」と証言しているという意味で真実でもある。
物語では、ことの真相は終盤まで明らかにされず、天使に言い寄る男(たち)は、いわばプラトニック・ラヴを余儀なくされてしまう。彼(ら)は、ここぞという場面で「男のオレを受け入れられるのか?」という問いをつきつけられてしまうのだ。ここで彼(ら)は「天使=男」説をどうしても信用できず、意図的に忘れようとしたりするのだけど、このようなとき、果たして「男らしく諦め」るのが自然といえるだろうか?
また、この作品において恋愛が成立しないのは──というか、あくまでプラトニックな恋愛にとどまるのは、周囲の男たちが逡巡するからだけではない。他ならぬ天使自身、どのような恋愛を受け入れるべきなのかを案じていることに注目しなければならない。一方、男女平等を謳う「金八」の第6シリーズで、鶴本直の恋愛(観)がどのように描かれているのかが気になるところだ。もっとも鶴本は天使ほど面白おかしく優柔不断であるわけではなく、どうやら男が恋愛対象になるとは端から考えていないようなのだけど。

*1:ところで今回のスペシャルだけでは、鶴本直がなぜ、毎日走り込みをし、部屋にサンドバッグなどのトレーニング用具を置いているのかが不明なのだけど、ボクサーにでもなるつもりなのだろうか?

*2:まあ女に「オレ」と言われた時点で引く男も少なくないだろう(笑)。