井筒監督と『パッチギ!』

虎の門」では「こんな奴おるわけないやろ!」と他人の映画にすぐにケチをつける井筒監督。人物造型や物語設定にリアリティーが欠けていると一段と評価が厳しくなる。『THE JUON 呪怨』に対しては「伽椰子はケッサクやな」「俊雄君はええなあ」と意外にも(?)素朴な映画好きの一面を見せ、顔をほころばせつつも、三つ星満点で星一つというなかなか厳しい評価を下していた。「ええなあ」といいつつ、星一つというところに、この人の意地の悪さが見られる。といっても、そもそも誉めまくっているあいだも「まさかこのままベタ誉めでは終わらならないだろう」という雰囲気をぷんぷん漂わせるところ、そういう意地の悪さをまるで隠さないところ、そして評価にまるで嘘偽りがない(ように見える)ところは、この「自腹映画」の最大の魅力の一つであり、また、長期間続くだけの信用を獲得している所以といえるだろうか。結局、今回の評価も、彼のこれまでの基準からすればかなり妥当なものに思えた。
パッチギ!』はなかなか面白かった。脚本を比較すれば『ゲロッパ!』のほうがアイデアや構成が優れている。『パッチギ!』のクライマックスでは、親友の死をきっかけとする在日朝鮮人と日本人両グループの抗争、放送禁止歌*1スタジオ生収録、そして出産がパラレルに描かれる。これだけドラマチックなことが偶然にも一夜のうちに起きてしまうわけだ。こんな偶然あるか? しかも勢いで誤魔化されてしまいそうになるけど、この親友の死に方というのがじつにマヌケで、一族総出で号泣するにふさわしい死に方とはとても思えないのだ……。
しかしながら、ご都合主義といえば、ご都合主義なのだけど、にもかかわらず、「これはこれでありかな」と納得させられてしまうのは、やはり役者が生き生きしているからなのだろう*2。また、当時の京都を知っている人からすると「ああ、京都やなあ。この雰囲気、東京の人、分かるんかいな」みたいな印象をもつらしいのだけど、こうした時代の生々しさを映し出す点において、『パッチギ!』はやはり井筒監督ならではの力業というべきなのだろう……。というか、つまりは、やっていることはほとんど『ガキ帝国』と変わらないのだけど……。

*1:正確には自主規制歌か。このあたりの事情は森達也放送禁止歌http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=00031449に詳しい。

*2:余談だけど、以前TBSの「ガチンコ!」という番組で、たしか「女優学院」という井筒監督が素人(?)を女優に育てる企画があった。あのとき、演技指導する監督はとても怖かった……(笑)。現場ではよっぽど鍛えられるにちがいない。